Handworks Blanketという名前を付けたわけ
編み物は小学校のころからずっと、機織りは30代になって始めました。でも、機織りを始めた頃はそれが仕事になるとは思っておらず、実は天然酵母のパンを焼いて10人ほどのお客さんに配達していました。その後、引っ越しして実店舗のパン屋さんを開く事になったとき決めたのがこの「Blanket」ブランケットという名前でした。
もともと、布が大好きで布を作りたい気持ちがいつもあり、もう、、、何も縫ったりしていないだだの布を体に巻きつけているだけでも、しあわせな気持ちになります。その包まれるような幸福感は何も布だけではなく、焼きたてのパンだったり、畑の草のにおいだったり、それから人にちょっとかけてもらえた言葉だったり。
そういうものすべてが「ブランケット」なんだろうって考えています。
もちろん、自分で作り上げる暮らしが自分のための「ブランケット」、たいせつに暮らしを包んでいくのは他ならぬ自分だと思っています。
そんなこんなで、ブランケットのある暮らしを求めて今にいたるのです。
今、Handworks Blanketは、本当の布を作っています。その布は、衣食住の「衣」もまた農とともにありたいと願い、農から始まる布を目指しています。そこにあるだけで焼きたてのパンのようで、草のにおいが感じられて、やさしく語りかけてくれるような布でありたいと思っています。
そして、そんな想いや願いがいろいろなご縁につながり、ずっと求めていた羊毛がやってきてくれる事になりました。この材料があるからこそ、作りたかったものが形になる。感謝をこめて制作したいと思っています。
本当に、ブランケットという言葉が形になります。この名前をつけてよかったなあって、改めてしみじみしています。
寒い季節、床の足元を冷えから守ってくれる敷き物や、森を歩くときに肩にかけたいホームスパンのおおきなブランケット、どこにでもお伴をする小ぶりのひざ掛け。暮らしと共にある一枚の布を作り続ける、それが自分なんだと、自分の「ブランケット」なんだと思います。
Kyoto Weavers Gardenのこと
Kyoto Weavers Gardenは、ガーデナーからのフレッシュな草木染植物たちというコンセプトでHandworks Blanketがお届けするもうひとつのブランドです。主に染色用植物をご紹介しています。
ウィーバーズガーデンとは、草木染めに使える植物を中心に植えられたお庭の事です。
植物で染められる色には、赤系、黄色系、青系、茶系、灰色系とほぼすべての色が可能です。しかしながら、その色は厳密にいえば、採取する季節や部位によってどれひとつとして同じものはありません。
自然からの恵みの色です。
それがまた楽しみでもあり、興味のつきないものなのです。
染織をする人、つまりウィーバーにとって、そんな四季折々の贅沢を味わえるのがこのガーデンです。
鍋つかみ
働く布たちが出来上がりつつあります。
鍋つかみは、働く布たちのなかでも特にわたしの好きなアイテムです。
いつもあたりまえのようにそこらへんに引っかかっているけど、見当たらないとなるとさあたいへん!丈夫で頼りになる、働く布です。出番のない時も、台所仕事のあいまにふと布の風合いに目がいきます。
こういうちいさな品は、作る工程もちまちま、、、ミシンを使うといえどほとんどが手作業で印をつけたり、アイロンを駆使して形を整えたり、手縫いで返し口をまつったり。何個も作るうちに、自分の手がマシンのように同じ作業を繰り返して覚え込んでいくのが楽しいです。
同じものを何個も作るのは好き嫌いが分かれる事と思いますが、私は自分の手がもくもくと動いて作られていくさまが気持ち良いです。 (2016.04.25)
もうひとつの綿
5月の台湾高雄。約一か月の滞在。ふわふわの綿毛が空から雪の様に降っています。普段綿を育てている畑ではありえない光景。でも確かに綿。その美しい光景に思わず声が上がります。
木綿(きわた)、コットンツリーという樹木なのだそう。毎年種を蒔いてはその年に収穫する畑の綿とは違い、街路樹のように大きく育ち、毎年綿の雪を降らせるコットンツリー。
集めたコットンツリーの綿は、今までさわったどの綿より繊細で柔らかく光沢があり、まるでカシミヤの様です。見た目は羊毛そっくり。しかも、小さな種は綿毛の外側にそっと付いているだけで面倒な種取もしなくて良いのです。
こんな良いことずくめで、まるで天からの贈り物のような木綿。。。なんて思うのは糸紡ぎをする私だけでしょうね。実際に庭にこの木があったら、綿毛の飛ぶ季節はご近所さんの車や洗濯物に迷惑をかけてしまうかもしれません。それに、庭に一本植えている方から小さな一袋をもらったのですが、あの大きな木からこれだけだと収穫量はあまり期待できなさそうです。
そんな微妙なコットンツリーですが、やっぱり植えてみたい、ホシイ。
(2017.06.21)
麻の仕事
一か月半ほど前にたいへん貴重な本を頂きました。「織物の原風景 樹皮と草皮の布と機」という題の本です。思ってもみなかった偶然、夢中で読み続けました。ページをめくり、読み進めては考え、またページを戻る。目次を読み返し、写真を図を探す。
三日後、まったく別の方から戦前に福井県で生産された大麻の束が手元にあるから糸にしてみないかというお話が来ました。
突然の事に、一瞬くらっ…何かが始まり出した予感です。
新聞紙に包まれた大麻の束を開けると、
ふわっとひなたの匂い。しかし、それはすぐに弱くなり気にならなくなりました。
大麻はたいへん清浄なものらしい。とても、戦前のものとは思えない輝きをはなっています。
本には、大麻を糸にする時は、根元と先の見極めが大切だとありましたが、この輝く束はその根元がわかるようにと美しい三つあみの編み込みでまとめられていまた。この部分は本には載っていなかったので、感動しました。これを編んだ人はどんな人だったのだろう。
今まで取り組んできた糸作りは、紡ぐ。
大麻に代表される樹皮、草皮は績(う)む。紡ぎ以上に、人の手でしか出来ない時間のかかる仕事。
績むという事はどういう事か、これからじっくり取り組もうと思います。(2016.06.27)
苔に魅せられて森を歩く
苔(コケ)でウールが染められるという事を知ったのは、寺村祐子先生の本「ウールの植物染色」に出会ったのがきっかけでした。その後、「Vegetable Dyes」「DYES FROM NATURE」なども読み、苔すなわち地衣類による染色という不思議な魅力に惹かれていきました。川島テキスタイルで寺村先生の講座に参加させていただけるという幸運にめぐまれた時は本当に嬉しかったのを覚えています。とても勉強になりました。
それからは、近所を歩くたびに道端や公園、里山などの苔が気になり出し、色々採取するようになりました。幸い、私のアトリエのある京都の上高野にはまだまだ自然が残っており、ウメノキゴケなどはたくさん入手できます。
アトリエのある古民家は共同で借りており、そこには里山や竹林などもあります。苔の採取に里山を歩くと、イギリスのハリスツィードは一部に苔で染められている色があると寺村先生の著書にあったことを思い出します。さくさくと歩く里山の木々を見上げながら、暖かく力強い大きなツィードのブランケットを制作しなければと…しみしみ思いました。この里山を歩くために。